作品情報
タイトル 「ホームカミング(原題 Homecoming)」
シーズン 1〜2
話数 17
監督 サム・エズメイル
出演 ジュリア・ロバーツ ステファン・ジェームス ボビー・カナヴェイル 他
放送年 2018〜2020年
Amazon original のドラマシリーズは恐ろしく面白い。
中でも衝撃だったのは「ホームカミング」だ。
1話が30分程度、話数はシーズン1で10話・シーズン2で7話。
圧倒的な短さなのに、圧倒的に引き込まれてしまう至高のアメリカドラマである。
見ればあなたも、食べたくなる。
◇ちょっと見よう…で一気見に突入
なんといっても主演はジュリア・ロバーツである。
知らない人いるの?って聞きたくなるほどの大女優、とりわけロマコメの女王と呼ばれるほど多くのロマンティック・コメディに出演してきた彼女。
歳を重ねても変わらないキュートさを持ちながらも、当然ロマコメだけではない幅広い確かな演技を見せてくれていた近頃のジュリアさま。
ドラマに出演!というだけでなく、製作にも携わるという驚きも与えてくれたのがこの「ホームカミング」なのだ。
それでもドラマに手を出しづらい要因の一つが、時間が長いと言うこと。
映画だと大体2時間、ドラマでは大体50分の話が何十話と続くのが多くの定番スタイル。
そんな制約さえ覆し、1話が30分、10話で完結ですと…?
これはなかなかサクッと見れるんじゃないか?と思って見始めたのが、運の尽きである。
何が恐ろしいって、序盤から謎が謎めいて謎だらけ、あっという間にハマってしまうのだ。
なんとなくつかめるのは「ホームカミング」という戦争従事者のための回復施設が存在する事、そこで主人公のハイディが支援員として働いていた、ということ。
そして現在のハイディはウエイトレスとして働いており、「ホームカミング」について調査中の国防総省の調査員がいるということだけ。
謎は徐々に明かされていくのだけど…もうなんというか1話の引きがうますぎて、終わったら即座に2話目の再生ボタンを押していた。
そしてこの流れは最終話まで…なんせ気にならせ方がやたら上手いのだ。
何よりも1話1話のエンドロールまでがクセになる。
さっさと見終わることが出来るという理由で見始めたはずが、10話を一気見で見終えてしまったら「終わってしまったのね…」とロス感すら感じた。
シーズン2が来た時にはもう狂喜乱舞である。
主演がジュリア・ロバーツからジャネール・モネイへと代わり、シーズン1で明かされなかった謎の舞台が描かれるシーズン2。
シーズン1と同じ不穏な空気にざわつく音楽、そして再び謎が更なる謎を呼ぶ謎だらけ感…。
すぐさま終わってしまうシーズン2では「本当に終わってしまったのね…」と更なるロス感を感じることになる。
思わぬ一気見にハマってしまうというポイントさえ押さえておけば、時間に余裕のある時に見ない理由はないだろう。
◇デリシャスなアイテムは?
あらゆる方面で気にならせ方が絶妙な「ホームカミング」、なにより嬉しかったのは食べ物というアイテムをバチっと焼き付けてくれたことである。
「ホームカミング」で提供される食事は美味しいらしい。
カウンセラーのハイディとの関係も良好な利用者のウォルターは施設を気に入っているが、ウォルターと同じ隊にいたシュライアはそうでもない。
毎日メニューに出てくるパイナップルを見ては「これはフロリダにいると思い込ませるワナだ」というのが神経が過敏になっているシュライアの持論だ。
第2話のタイトルにもなっているパイナップル。
映し出されるパイナップルはいかにもジューシーだし、ウォルターたちが言い合いをしながら食べていたパイナップル・コブラーは映りもしないのに美味しいと確信がもててしまう。
そして「ホームカミング」を表す料理として脳裏に焼きつけられたのが、ハイディが平らげるニョッキ。
火曜日にはイタリアンが供される「ホームカミング」で、ハイディはウォルターを食事に誘う。
もう食べたけどと言いつつもハイディに付き合い、ウォルターも食堂で山盛りのニョッキを食べるのだ。
色々なことが明らかになった後の、ハイディが選択を下したこの食堂でのシーン。
トマトソース仕立ての恐らくズッキーニが入ったニョッキ、山盛りに盛られた時からすでに美味しそう。
あら美味しい、なんて言いつつ車の旅について語りながらパクパクと食べ続けるハイディの姿が更に食欲をかきたててくれる。
現在のハイディが働いている安っぽい食堂”ファット・モーガンズ”もなかなか味のある建物で、あまり可愛くない看板がいかにもという雰囲気。
シーズン2で登場するのは、全てのことの始まりである”ベリー”。
ガイスト・グループの創業者であり農場を愛する男・レナードが育てた”ベリー”である。
植物栽培が生き甲斐であるレナードは温室を持ち、普段は農場の敷地に建てた小屋で質素な暮らしを送っている。
シーズン2でメインキャラとなるオードリーに振舞ってくれた”9種類の穀物の粥”は、美味しくないが腹持ちが良いとのこと。
後々明らかになっていくレナードの人柄や思考がよく表されたメニューだった。
良質な作品は細かなところまで丁寧に作り込まれているし、なかでも食べ物というアイコンの扱いに長けている。
ニョッキを見るたびに「ホームカミング」を、「ホームカミング」を見るたびにニョッキを思い出すほど、強烈なイメージを与えてくれるのだ。
◇もう一回見たい!からもう一周へ
原作はポッドキャストだったという、マイカ・ブルームバーグとイーライ・ホロウィッツという2人のクリエイターによって作られた「ホームカミング」。
シーズン1を見終わったら?深い余韻にしばし浸ってから、もちろんシーズン2を見ればよい。
シーズン1をじっくりと噛み締めたければもう一度シーズン1を見直し、シーズン2へと進めば良いだろう。
短い1話、短い1シーズン、何度でも気軽に繰り返し観れるのが「ホームカミング」の素敵なところでもある。
たった30分でヘタな映画を観るよりも深い充足感を与えてくれる1話1話の作りも、このドラマならではなのかもしれない。
Amazonに載っているあらすじはなんともフワッとしていて、本編のとてつもなく濃い雰囲気を掴むことすらできない。
だけどやっぱり公式のフワッとしたあらすじにとどめておき、前知識を入れずに一気に本編を見てしまうのがお勧めだ。
そして謎が解き明かされてから見る2周目でようやく、あらすじのうまさに驚かされる。
クセの強い監督の映像へのこだわりがひとつひとつ再確認出来る余裕も2周目ならではだろう。
ここでもやはりふんわりした内容のことしか書けないが、それはやっぱり初見の楽しみを奪わないためである。
シーズン2で衝撃のラストを見終わったら、きっとまたシーズン1に戻りたくなるはず。
何周してもジュリア・ロバーツは最高だし、たった30分とは思えないほど濃密に描かれたストーリーは他ではお目にかかれない。
「ミスター・ロボット」でも重厚な世界観を作り上げたサム・イスマイル監督ならではの計算し尽くされた映像は、どこを取ってもいちいち完璧なのである。
ジュリア演じるハイディの母役にシシー・スペイセクが出演していたり、ガイストの創業者・レナード役にクリス・クーパーだったりと、キャスティングも絶妙なバランス。
過去と現在が交互に描かれ、徐々に明らかになっていく全貌や、おかしいのに切ない「タイタニック・ライジング」の小噺など、見どころだらけのシーズン1。
「ガイスト」という企業が人々の野心で変貌していく様と、その全ての結末を描いたシーズン2。
見終わった後、必ずニョッキが食べたくなってしまうほど、映像が焼き付けられる強烈なシリーズ作品だった。
シーズン2の主役・ジャクリーン役はジャネール・モネイ。