「プッシャー 3」について

作品情報

タイトル「プッシャー 3(原題 Pusher 3)」

監督 ニコラス・ウィンディング・レフン

出演 ズラッコ・ブリッチ マリネラ・デキク クルト・ニールセン他

公開 2005年

上映時間 102分

「プッシャー」で大物のドラッグディーラーだったミロの、年老いて影響力が弱まった姿を描いた作品。

ミロのエプロン姿が楽しめるバイオレンス・クッキング・ムービー。

◇これまでの登場人物のその後は…?

「プッシャー」「プッシャー 2」と登場しパワーを誇示してきたコペンハーゲンの大物、ミロさま。

歳を重ね、時代の変化についていけなくなった彼はシビアなドラッグ界ですっかり勢いをなくしていた。

なんと言ってもあのキレキレだったミロさまが断薬会で「クリーンな状態を続けるぞ!」なんて言っているのだ。

現役世代の若者たちに押されてトップから退くのも自然な成り行きと言えるだろう。

かと言って密売の世界から足を洗ったわけではないミロさま、ヘロインを仕入れるつもりが大量のエクスタシーを掴まされてしまってご機嫌ななめなところから物語は始まる。

影響力をなくしたとは言え、自身の経営する飲食店やお金のかかるわがままな1人娘のために稼ぎ続けなきゃならないミロさま。

愛する娘の25歳の誕生日パーティーを盛大に祝うため、豪華なプレゼントも用意したところである。

今回初めて登場するミロの娘・ミレナ役は監督が見ていたデンマークのバラエティ番組「ロビンソンの探検」で活躍していたマリネラ・デキク。

彼女をイメージして書いたというミレナのキャラクターは、エネルギッシュで自信に満ちた意志の強い女性である。

ミレナの恋人として登場したマイクは、「プッシャー」でフランクに銃を売りつけようとしてのちにフランクに襲撃されてしまった男だ。

ミロの右腕には「プッシャー」でラドヴァンのいとことして紹介され、「プッシャー 2」でもミロとともに行動していたガタイの良いブランコ。

もう1人の側近は「プッシャー 2」で食料を届けに来てくれたデリコンヤでいかにも気の利きそうな男だけど、本作ではブランコとともにツラい目に遭わされる。

そんな2人の側近にさえ内緒で断薬会に足を運ぶミロさま、この日はエクスタシーの問題、失敗出来ない娘の誕生パーティーのための料理とストレスの多い1日。

忙しくキッチンで働いているところにやってきたのは、モハメドという自称“コペンハーゲンのキング”というドラッグディーラー。

ちなみに彼は「プッシャー 2」でトニーに銃を売ってくれた男である。

ナメた態度を取るモハメドに苛立ちながらも、エクスタシーを捌くために交渉を続けるミロさま。

事がうまく運ばずイライラに呑み込まれそうなミロさまの前に現れたのは「プッシャー 2」の取引相手であるカートだった。

完全にあっちの世界へ行ってしまったようなカートはミロさまに絡み、ヘロインを押し付けて去ってしまう。

せっかく「クリーンな状態を続けるぞ!」なミロさまだったのに、ストレスフルな状況で目の前に現物を置かれてしまうと抗えない。

フランクを地獄へと引きずり込んだあの日のように、ミロさまもズルズルと絶望的な泥沼に足を取られてしまうこととなるのだ。

◇ミロ=クッキング

「プッシャー」の頃から飲食店を経営していたミロさま。

料理を作るのが好きで人をもてなすことが大好きな陽気なドラッグディーラーなのである。

目に入れても痛くないほど溺愛する娘の、記念すべき25歳の誕生日。

実は妻を亡くしシングルファザーだったミロさまにとって、決してハズすことの出来ないイベントで、当然盛大なパーティーを開くことになる。

パーティーとなればもちろん大事なのは料理であり、招待客50人分の料理は全てミロさまが準備することになった。

セルビア系のミロさまが準備したのは豪華な豚の丸焼きや肉や米をキャベツで巻いたサルマと呼ばれる料理など。

残念ながらこの日は”クリーンになって5日目”であり、ヘロインのはずがエクスタシーをつかまされるなどの仕事のトラブルもあって絶不調。

どこか上の空のまま作ったサルマは「肉が生だ」とデリコンヤに指摘されることとなった。

おとなしく聞いておけば良かったものを「生なわけないだろ!」とはねつけてしまったミロさま、のちに悪夢のような事態を引き起こすこととなるのだ。

DVDに収録されている特典映像に「ミロとクッキング」なるものがあり、どうやら「プッシャー 3」の宣伝でドイツのテレビ番組に出た時のもの。

ズラッコ・ブリッチがミロさま風にサルマを作りながら撮影の裏側などを話すというものだったが、映画に出てきたサルマはズラッコの母のレシピだったらしい。

「こうやって包むんだ」と司会者に教えながらキャベツを巻くズラッコ、「破れてるよ」と指摘されても絶対に認めないところがミロっぽくて面白い。

「プッシャー」の頃と違い、店のゲートに監視カメラが付いていたり、物騒なアレコレをあちこち隠すためミロさまが専用の鍵を首から下げていたり、闇が深まっていたミロさまのお店。

ブランコやデリコンヤは、きっともう2度とミロの料理に手を付けないだろうな、と思う。

◇ヘヴィー級のエネルギーが炸裂

「プッシャー」「プッシャー 2」と同じくアマチュアのキャストたちがうまく脇を固めた本作。

1番の魅力は移民の多い環境ならではの、多言語が飛び交うセリフの応酬の数々である。

「プッシャー」の時はブチ切れたミロさまがセルビア・クロアチア語で悪態をつき、不吉な指示を出してフランクを震え上がらせていた。

今回はミロさまが取引のために会いに行ったアルバニア人の言葉がわからず、通訳を入れて交渉をするシーンなどが多め。

相手には言葉がわからないのを良いことに、常に人の裏をかこうとするそれぞれのやりとりがまさに”裏社会”といった感じである。

結局ツイてない1日の最後に全盛期と同じようにキレ散らかしてしまったミロさま。

ついつい手を出した5日ぶりのドラッグがかなり効いている上ひどく疲れているのに、後を任せられる側近たちは役に立たない(ミロさまのせいだが)。

困った時こそ頼れる旧友に会いに行こうと車を走らせ、久しぶりに登場したのは「いつか自分のお店を持ちたい」と語っていたラドヴァンだった。

有言実行のラドヴァンは立派な明るい飲食店を経営、成功しているようである。

黒い服はやめて健康的な笑みを見せるラドヴァンは「もうそっちに足を踏み入れたくない」と語るものの、今回だけという約束で手助けすることに。

ミロさまは車のトランクに入れてきたモハメドを“コペンハーゲンのキング・コング”とラドヴァンに紹介し、とりあえず自分を裏切った経緯を聞き出す。

もちろん「お話ししましょう」ではなくて痛めつけるというやり方で聞き出すのだけど、慣れた手つきで拘束・拷問にかけるラドヴァンと、疲れて嫌になってきているミロさま。

勝手にラドヴァンのお店の飲み物を飲もうとしたり、モハメドの挑発にまたキレ倒してしまったりと、コントロールが効かない状態である。

反対に「次は?」と冷静にことを進めるラドヴァン、ミロさまのお店に来て、ミロさまが派手にやらかした”1人パーティー”の後始末。

ポンコツになりかけているミロさまと「しっかりしなよ」と発破をかけながら淡々と作業を進めるラドヴァンは、前作・前々作になかった強烈なシーンを生み出してしまうのだ。

死体の始末を自分でやりたくないミロさまが「前にやったことあるだろ」とラドヴァンに押し付けるシーンでは、「それってフ…!?」と心がざわめいてしまった。

イライラの募る1日に、それまで抑えていたものがとうとう爆発してしまうミロさま。

後半の怒涛のエネルギッシュな姿と、盛者必衰・諸行無常なエンディングは、悲しくも美しい重厚なアートを見せつけられた感覚。

トリロジーを締めくくるのにふさわしい完成度の高い本作、もちろん「プッシャー」からの一気見がおすすめである。

デリシャスなシネマ「プッシャー 3」もあわせてどうぞ。

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