心を落ち着けたい時は、故郷の食べ物を。
初めて異国でひとりぼっちになったアシマが作ったのは
インドのスナック・ベルプリ。
Story
インドで列車事故にあい、九死に一生を得たアショケ。
夫婦でアメリカで暮らすことになったアショケとアシマは、生まれてきた我が子に”ゴーゴリ”と名付ける。
その名はアショケにとって、特別な意味を持つものだったがー。
ゴーゴリはアメリカ生まれのアメリカ育ちですが、アメリカ人だと思ってもらえる機会が少ないことにコンプレックスを抱いています。
インド人らしい風貌、親戚や同胞の集まり、なにより風変わりな名前にうんざりしていたゴーゴリ。
大学への進学を機に、正式な名前”ニキル”へと名前を戻すことに決めて、”ゴーゴリ”の名を封印することにしました。
インドでは正式な名前を決めるまでに長い時間をかけ、それまでは愛称で呼ぶのだとか。
ゴーゴリの場合は、正式名が”ニキル”で愛称が”ゴーゴリ”。
ゴーゴリは幼い頃学校へあがるタイミングで”ニキルよりゴーゴリが良い”と自分で希望してしまったため、ずっと”ゴーゴリ”の愛称で呼ばれていたのです。
ゴーゴリの名前は、父・アショケの好きな作家”ニコライ・ゴーゴリ”というウクライナの作家にちなんだもの。
そこには列車事故に遭ったアショケの深い思いがこめられているのですが、ゴーゴリがそれに気付くのはまだ先の話です。
そんなアショケと母・アシマの出会いはインドでのお見合い。
両親が結婚相手を選ぶのが一般的であるインドでなんの疑問も持たずにお見合いをし、結婚することになった2人。
アショケの仕事の都合でアメリカへやって来たアシマでしたが、何もかもがインドと違いすぎるアメリカでの暮らしに、不安でいっぱいでした。
地球を半周してきたばかりのアシマのために、アショケは丁寧にガスコンロの使い方や水道の使い方を教えて、お茶を淹れてやります。
それでもアショケが仕事へ出かけてしまうと、アシマはひとりぼっちに。
身寄りもなく、友達すらいない異国の地で、アシマが作って食べたのはベルプリ。
ベルプリとはインドで楽しまれる「チャート」という屋台の食べ物の一種で、パフライスで作られる軽食。
パフライスに玉ねぎやピーナッツ、チャート・マサラやレモン汁を混ぜ合わせたもので、タマリンドソースで和えられるのが一般的です。
インドではどこでも食べることができるベルプリですが、アメリカでは材料さえ「インド料理専門店」でしか手に入りません。
遠い国へ来てしまったという距離を感じながら、異国で味わう故郷の味。
心を癒し、満たしてくれるのは、いつでも食べていた懐かしい味なんですね。