「プッシャー 2」について

作品情報

タイトル「プッシャー 2(原題 Pusher 2)」

監督 ニコラス・ウィンディング・レフン

出演 マッツ・ミケルセン リーフ・シルベスター・ペーターゼン ズラッコ・ブリッチ他

公開 2004年

上映時間 96分

前作「プッシャー」でフランクの相棒だったトニーをメインに据えたストーリー。

おバカなトニー坊やに不覚にも愛を感じる驚愕の1本。

◇カムバックトニー坊や

そもそも続編なんてありきたりな事はしたくなかったニコラス・ウィンディング・レフン監督。

「プッシャー」「ブリーダー」と立て続けにヒットを飛ばした後、3作目の「Fear X」で血も凍るほどの負債を抱えてしまう。

残された選択肢が「プッシャーの続編を作ってヒットさせること」。

「主人公を誰にしても話がかける」なんて言いつつもなかなか書けずにいた脚本は、「このままじゃOKがだせない」なんて言われて書き直したりしながらも素敵な仕上がり。

ダメ出しを食らった本来の脚本も気にはなるものの、生きていると思わなかった(!)トニーを主人公とした本作はちょっと感動さえしてしまう作品となったのだ。

出所したてのトニーは故郷へ戻り、1からやり直すことに。

やり直すと言っても「薬をやめて真っ当に生きるぞ!」と心に誓っただけのトニーは、あっという間にグダグダなドラッグ生活へと戻ってしまう。

フランクとの縁が切れたのは良かったけれど、戻った環境が悪すぎたトニー。

なにせトニーの父親が悪の親玉みたいな商売をしていて、トニーの友人もその手伝いをしているし、産まれた時から周りに”真っ当”な人間なんていた試しがないのだ。

なおかつどこかピュアな心を持つトニーは、役立たずだのロクデナシだのと父親から言われ放題で、周りの人間からも”ダメなヤツ”として扱われている。

そんなトニーが出所後いきなり突きつけられたのが「あんたの子供が産まれたよ」という現実。

初めは否定していたものの身に覚えもあるトニー、「世話なんかして欲しくないからお金だけ出して」という赤ん坊の母親からの催促を受けて「なんとかしなきゃな〜」と考える。

老いも若きも男も女もほぼドラッグを使用しているトニーの周辺、当然赤ん坊の母親も立派なジャンキーで、トニーも特に気にしていなかった。

それでも何度か見るたびに大事にされていない赤ん坊が気になってしまうトニー、積もり積もった思いを爆発させることになるのだが…。

ただの陽気なおバカだと思っていたのに、悲しいバックグラウンドを持ち、そこから抜け出せないでいたトニー。

意外とデリケートな面を持つフランクと相性が良かったのは、自身の抱えてきた孤独と共鳴したせいかもしれない。

自分だけが助かろうとするフランクと違って「頑張れトニー…!」と思わせる不思議な健気さを醸し出し、もはや後頭部のアホっぽいタトゥーまでが涙を誘うのだ。

父親に罵られ、女たちからもコケにされてなおやり返すこともなく半笑いで受け流してきたトニー。

やり返さずとも傷つき動揺するトニーの目の泳ぎ方は、マッツ・ミケルセン以外に演じられないと思えるくらいのハマり役だった。

マッツは本作でボディル賞主演男優賞・ロバート賞主演男優賞と、デンマークの主要な映画賞を2つ獲得している。

愛をもって「君は最高におバカさんだな…!」と言いたくなるシーンはいくつかあるけれど、どこまでも憎めない愛くるしいキャラクターであるトニー。

お金の事情もあったとはいえ、トニーを描いてくれた監督に心から感謝したい。

本作で孤独なトニーを悪事に誘い込むのは、カートというドラッグディーラー。

あまり頭が良くなさそうな彼は、同じく賢くないトニーを”自身の経営する風俗店へのフリーパス”なんてくだらないご褒美で釣り上げる。

結局釣られるんかい!という驚きもありつつ、勝手にあれこれ事を進めるカートの巻き添えを食うトニーの人生は加速度的に闇へ向かっていくのだ。

◇やっぱりミロ!

トニーのストーリーというだけでも嬉しかった本作には、なんとミロさまも再登場。

前作では会話する機会のなかったトニーとミロが仲良く並んで座るシーンで、多くのファンを狂喜乱舞させてくれた。

カートについて行っただけ(一応警護だったらしい)の取引の場、ホテルの一室に現れたのはミロさまとガタイの良いブランコ。

歳を重ねたミロさまはスリムだった体型も貫禄充分になっていて、そこら辺のチンピラくらいなら目が合っただけで倒せそうなくらいだ。

トニーを見て嬉しそうに笑うミロさまは「トニー坊やじゃないか」と呼びかけ、誰がやってくるか知らなかったトニーはなんとなく目が泳ぎ始める。

座り方が完全に”その道の人”であるミロさまと、隣で大きな体をなるべくちんまりさせるトニーの格の違いが一目瞭然で面白い。

カートに対しては握手を拒むほど(トイレから出てすぐの乾いていない手が嫌だったらしい)冷たいミロさま。

トニーのことは友だちだと言い「フランクはどうしてる?」なんて聞いてみせたり、トニーの後頭部をぺチッと叩いて見せたりと好意的な態度を見せてくれる。

肝心の取引相手であるカートはフランクよりも残念な子で、トニーよりも愛嬌がないせいか、
悲しいことにミロさまに好かれることはなかった。

トニーもトニーですぐミロさまのペースに乗ってしまい「どっちの味方だよ!」とカートに怒られる始末。

フランクにしろカートにしろ、ミロさまが冷酷な顔を見せる時のセリフは痺れるほどカッコいい。

そして大事な取引の場にあとからやって来た手下がフランスパンを抱えて入ってくる、というシュールな場面もミロさまらしさが全開で素敵だった。

たった数分の登場シーンでも食べ物が欠かせないミロさまの食いしん坊ぶりは健在である。

◇続編だけど続編じゃない

なんと言ってもテンポと勢いが素晴らしくパワフルだった前作の「プッシャー」。

どうしても続編となると比べてしまいがちだけど、まったく独立した物語となった本作は比較なんてする必要もなく、文句なしに面白い。

本作で監督がこだわり抜いたのは、キャスティング。

「常に新しいことを試したい」と語る監督は、マッツ以外のキャストをほぼアマチュアで固めてみせた。

キャスティングした中でも制作陣のお気に入りは、カート役の彼である。

昔かなりヤンチャしたという彼はいざ撮影が始まるとセリフが覚えられず、「毎日吸っていたマリファナのせいだ!」と己の記憶力を呪い始める。

そんな彼に監督は「役を理解してないからだ」とセリフの重要性を教え、マッツは「2言だけ合ってたよ!」と優しくフォロー。

ミロさまとのシーンはどれほど大変だったのかかなり気になるところだけれど、最終的にみんな撮影を楽しんだようだ。

素っ裸で風俗店にいるシーンがあったり、子供のいるパーティーにストリッパーがいたりと、裏社会に生きる人々のよりリアルな姿が描かれた本作。

どこをとっても「詰んだ…」という言葉しか出てこなかった前作と違い、「人生って続くのね…」と将来を思わせられる、別の視点を与えられた作品だった。

DVDにはキャスティングの際のポイントやオーディションの様子などをチラッと見ることが出来るボーナス映像が収められていて、より「プッシャー 2」の世界が楽しめる。

ちなみに「プッシャー」のDVDには「プッシャー 2」「プッシャー 3」を作るに至った顛末が「ギャンブラー」と題して収めてある。

主に資金面での制限があり強行スケジュールの中で四苦八苦しつつも、妥協することなく新しい映画を作り出す職人技は、最高にワクワクする特典映像なのだ。

きわどいシーンのきわどいセリフの読み合わせで、自分で書いたくせに「こんなセリフ言えないよ!」と監督が照れる姿なんかも興味深くて必見である。

デリシャスなシネマ「プッシャー 2」もあわせてどうぞ。

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